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「どうしても、田舎に住みたい」折に触れ、彼女はそう言っていた。
西東京に新居を構えて数十年、定年退職を間近に控えて夫婦で話し合ったのだという。
「こんなに立派な家があるのに」私は辺りを見回す。
大手ハウスメーカーで建てた注文住宅。
オプションも結構入れているはずだ。
「田舎に行って西東京のここはどうするの?」売るのだろうか、貸すのだろうか。
「西東京には戻ってこないから出来れば売りたい」即答する彼女。
ご主人ともよくよく話し合った結果なのだそうだ。
「でも何で田舎に」。
連休中に夫婦で旅行してきたのだと彼女。
場所はご主人の故郷に近い、海が見渡せる山間の町。
他同様、高齢化が進んでいるそうだ。
その町にはホテルや旅館などなく、漁師の奥さんが営む民宿に腰を落ち着けたのだという。
「そこで食べた魚が美味しくて、美味しくて!」彼女の目が輝く。
山菜も野菜も新鮮で美味。
海も観光地化されておらず、水がきれいだ。
山には湧き水が注ぎ込む川があり、小さな実が付く木々がある。
彼女はこの町の美味しい物を味わいたいし、提供したい。
ご主人はこの地で野菜や果実を作りたい。
この素敵な場所を誰かと共有したい。
2人の決心は固かった。
「町は電力を自給しているんだけれど、ペレットで燃やす簡易ストーブがあってね、料理にも使えるし、それで燻製を作ってみたいの」。
でもそんなところで商売出来るのだろうか。
私の不安を読み取ったように、彼女が言う。
「放し飼いの鶏と卵をやり始める人がいる。
小さな学校を利用した、簡易宿泊所をやりたい人がいて、料理を提供したい私もいる」。
彼女たちご夫婦は結局西東京の自宅を売却して、嬉々として田舎に引越して行った。
数か月後、写真付きのメールが届いた。
「古民家が私たちの住まいです。
来年の春にはオープン予定。
日本一のチキンと卵あり」、微笑む2人の姿。
それでは来年春に、2人を訪ねてみよう。
彼女たちのワクワクが私にも伝染したようだ。